博報堂DYグループにおける博報堂、大広、読売広告社、博報堂DYメディアパートナーズ、Hakuhodo DY ONE、そして博報堂テクノロジーズの情報システム部門の役割を担うグループ情報システムセンター。グループの屋台骨を支えるセンターの役割と取り組みについて、合田 泰執行役員兼センター長に話を伺いました。
何を作るかより、何を成し遂げるかが重要だと気づいた若手時代
はじめに合田さんのご経歴について教えてください。
新卒で印刷会社に入社しました。営業職や企画職を希望していたのですが、配属されたのは本社の情報システム本部でした。正直最初は情シスってなんだろう、という気持ちでしたね。
ただ、そこで社内外の方々に良い教育をしていただいて、システムを作るよりも、何を成し遂げるのかを追求することが重要だと学びました。
当時はまだ1人1台PCを持つ時代でもなかったのですが、ITを使って何かおもしろいことができないかと考え続けている上司のもとで、POSデータを使ったマーケティング分析や発足間もなかったプロスポーツチームのスコアデータを活用した商品企画のようなことをやっていた部署でした。そこでは、施策そのものがおもしろいかどうかを考えながら道具をうまく作っていくという基礎を教わりました。その後博報堂に転職し、以降約25年間、一貫して社内IT環境の整備を担っています。
前職でもさまざまなチャレンジをされたと思いますが、転職を決められたのはなぜでしょうか。
前職の印刷会社においては内製開発が前提となっていたのですが、システムというのは自分で作ったり運用したりしようとすると、どうしてもそれだけで手一杯になってしまいます。私はいろいろなことに興味があって、たくさんの挑戦をしたいと思っていたので、開発や運用の実務はある程度パートナー企業に協力してもらいながら、複数のテーマに携わる仕事の仕方を志向するようになったのが転職のきっかけです。 ちょうどそのころ博報堂が求人を出していたので話を聞いたところ、自分が求めるスタイルで仕事ができそうだったので、入社を決めました。
グループの成長の礎となるグループ情報システムセンター
現在センター長を務められている博報堂テクノロジーズのグループ情報システムセンターはどのような組織ですか?
現在のグループ情報システムセンターは、博報堂テクノロジーズが設立した2年前にできました。元々は2003年に経営統合した博報堂と大広、読売広告社の情報システム機能を、2007年に博報堂DYホールディングス内で統合したことが始まりです。
博報堂テクノロジーズ設立時に、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムとアイレップ(現Hakuhodo DY ONE)の情報システムチームにも参画してもらいできあがったのが、現在のグループ情報システムセンターです。所属メンバーは約80名、管理しているユーザー数は約23,000アカウント(2024年7月現在)という規模の大きな組織です。
当センターの役割は大きく分けて3つあります。
1つめは、グループの事業の中心である広告業における販売管理システムおよび会計システムや人事システムなどのいわゆる基幹システムを企画、開発、運用すること。
2つめはデジタルワークスペースの整備。デジタルワークスペースとは、従業員が仕事をする上で使用するIT環境全般を指しており、PCやスマートフォン、ネットワーク、メールやグループウェアなどのコミュニケーションツールが含まれます。
3つめはグループITセキュリティの強化です。先に挙げた基幹システムとデジタルワークスペースは共に現在大刷新を進めています。博報堂DYグループをさらに進化させるべく、新しいテクノロジーを取り入れているので、当然新しいリスクにも向き合う必要があります。
その中でも大きなイシューがセキュリティ対策です。われわれが直接開発したIT資産はもちろんのこと、グループ各社がサービスとして提供しているシステムやIT設備も含めてセキュリティ強化に取り組み、基幹システムやIT環境の変革を支えています。
当センターは、いわゆるシステム受託子会社ではなく、グループIT施策の戦略立案、中期計画から、年度ごとの予算組み、各施策の企画、要件定義、設計、開発、運用まで、カバーする領域が縦に長いことが特長です。
もちろん開発や運用まで自分だけで全うすることはできない上に、一気通貫してQCD(品質・コスト・納期) をコントロールできなければいけないので、どのフェーズにおいてもITに関する土地勘・目利きを持っていることが求められます。
そうしたスキルを背景に実際のプログラミングや365日24時間の運用はアウトソーシングしているかわりに、メンバーはそれぞれマルチタスクでいくつかのテーマを同時並行で担当するような体制をとっています。
博報堂テクノロジーズになって、変化を感じることはありますか?
情報システム部門に求められる役割が拡張していると感じています。博報堂DYホールディングスの中の情報システム局であった時には、周りにいるのが人事や経理、法務、総務の方々だったので、その中で情シスはシステム関連の業務をするという感じでした。
ところが、博報堂テクノロジーズができて周りが同じようにITやテクノロジーを扱う人々になったことで、われわれのやってきたことが意外と他のところでも役に立ちそうだということがわかってきたんです。
情報セキュリティ対策などを含めていかに堅牢な仕組みを作れるかという観点だったり、数十億円規模の大きなシステムを作ったり運用した経験やノウハウはグループの中でもわれわれしか経験したことがないユニークなスキルで、これは他のセンターやこれからグループ全体がテクノロジービジネスを拡大してく際には、とっても有用なスキルです。
こうしたことを背景に、たとえばユーザーの認証システムの基盤やグループ全体のデータ基盤の整備など、グループのために何かをするという仕事が増えてきています。
「価値」と「勝ち」にこだわる
グループ情報システムセンターで大切にしている考え方、共有している行動指針はありますか?
私が常に所属員の皆さんにお伝えしているのは「価値」と「勝ち」にこだわろうということです。「価値」というのは、われわれグループ情報システムセンターが取り組んでいる施策の値打ちです。製品やサービスは、ただそこに存在するだけでは価値が生まれません。
誰かにとってそれが便利であったり役に立ったりするということが言語化され、かつその通りに認知されて初めて「価値」が生まれます。情報システムの施策も同様に、なぜその施策をやるのかをきちんと言語化してビジネスオーナーとの共同目標にできた時点で、はじめて施策の「価値」が生まれます。その意味で「価値」にこだわろうと言っています。
考えてみると、製品やサービスの魅力を消費者に伝えて、価値を生み出すというのは広告業の生業そのものです。われわれは広告業を中心とする企業にいるわけですから、その部分は情報システムでもできなければいけないと思っています。
幸いなことに、われわれの周りには日本でトップレベルの広告のプロが集まっています。そういった方々に鍛えられながら、価値を生むスキルを磨けることは博報堂テクノロジーズのユニークネスなので、これからも「価値」にはこだわっていきたいです。
「勝ち」にはどのような思いが込められていますか?
情報システムの人間にとっての「勝ち」とは、開発プロジェクトの成功を指します。開発プロジェクトの成功はすなわち確実なQCDの達成ですから、「勝ち」にこだわるというのはQCDを着実に達成していくということです。
WBSを作成して、それに沿ってクリティカルパスを確認する。プロジェクトメンバーで定例会も実施し、そこで出た課題は課題管理表に落とし込んで期限と担当を決めて潰していく。こういった運営は、開発プロジェクトにおいてかなり一般的なプロジェクトマネジメントのあり方だと思います。
ところが、これをやっていても失敗はする。私自身も何度も経験があります。とくに、われわれが扱っているような予算規模の大きなシステムの場合は、その確率も上がります。
なぜ失敗してしまうかというと、それは管理のためのプロジェクトマネジメントに終始し、成功するためのプロジェクトマネジメントになっていないからです。本来は、成功のために何が必要かを突き詰め、実行することが、プロジェクト成功の鍵になります。当センターでは、博報堂テクノロジーズ流の成功のためのプロジェクトマネジメントのあり方を模索しながら、圧倒的常勝集団になることをめざしています。
現在注力しているのは、内製率を高めて自分たちがコントロールできる範囲を拡大すること、先回りすること、そしてこれが最も重要ですが、協力会社の皆さんと受発注の関係ではなくOne Teamになるということです。開発ベンダーがお客様である情シスに報告をするという場面はよくあると思いますが、われわれはそういった形式を取りません。当センターの社員も課題管理表を作りますし、それについての議論も一緒に行います。
また、同じ会社のメンバーであれば使わないような「すみません」や「これでよろしいでしょうか」といった言葉も禁止しています。こういったことの積み重ねによって「勝ち」にこだわるOne Teamができると考えています。
時代をリードする博報堂DYグループの屋台骨を支えるプロジェクト
直近はどのようなプロジェクトに取り組んでいますか。
やっていることは多岐にわたります。たとえば、基幹システムの中で最も大きい、スポットCM(注:テレビCMの種類の1つ)の受発注システムのDX化を現在進めています。
インターネット広告が台頭する中で、テレビCMもデジタルデータをどう関連付けていくかが大きなテーマとなっており、近年は運用型のテレビCMも注目を集めています。そういった次世代のテレビCMのあり方に対応するために、全体で約2年、1,200人月をかけた大きなプロジェクトとして、レガシーシステムからの刷新に取り組んでいます。
また、制作業務のDXにも取り組んでいます。従来外部の方とのコミュニケーションは個人のEメールや紙でのやりとりが多く、周りからは仕事が見えず属人化されてしまっているケースが少なくありませんでした。次世代の業務効率化を進めるためにはそこを透明化する必要があるため、最初のステップとして、外と中とのやりとりをすべてデジタル化しようとしています。
これは当然われわれ博報堂DYグループだけが楽になれば良いという問題ではなく、ビジネスパートナーの方々を含めてどう効率化していくかが重要なので、制作部門を主幹するビジネスオーナーたちとグループ情報システムセンターで協議をしながら進行しています。
先ほども少し触れましたが、グループ横断のデータ基盤の整備も進めています。M&Aによってグループに加わった会社も多いので、これまではデータがばらばらに存在している状況がありました。グループ全体で価値を出していくためには、経営だけでなく、システムやデータもつながっていることが重要であり、かつそこに新しいテクノロジーを採用していかなければ武器にはならないと考えているので、さまざまなトライアル&エラーを繰り返しながら積極的に挑戦をしています。
最新のテクノロジーを取り入れるという点では、昨年、ChatGPTなどの生成AIが話題となる中、当社はMicrosoft社のAzure OpenAI Serviceを活用し、約1カ月という短期間で「HDY ChatGPTプレイグラウンド」という安全で便利なグループ向け利用環境を整備した実績があります。法務やビジネス部門と協力して生成AIについてのガイドラインを用意したり、利用のハードルを下げるようなテンプレートの作成やUIデザインに取り組んだりしたことも、当社らしいチャレンジだったと思います。
グループを牽引するテクノロジー人材輩出部門へ
「価値」と「勝ち」にこだわった先には、どのようなグループ情報システムセンターの姿があるとお考えですか。
グループのテクノロジービジネスをもっともっと強くするための人材輩出部門になりたいと考えています。自分たちの組織だけでなく、グループ全体の未来にとって欠かせない人材を育てていきたいです。
現在の博報堂DYグループの中期経営計画においては、テクノロジービジネスが1つの大きな柱になっています。グループの中でおそらく唯一、数億から百億円規模のシステムを作る経験をしているのがグループ情報システムセンターです。そういった規模の大きな案件で「勝ち」にこだわったプロジェクトマネジメントができるメンバーをグループのいろいろなところに送り出すことで、グループ全体のテクノロジービジネスのレベルを上げていきたいというのが私の思いです。
「粒ぞろいより、粒違い」のDNA
合田さんが考える、グループ情報システムセンターの仕事のおもしろさを教えてください。
まずは、自分たちがやりたいことをビジネスオーナーたちと議論をしながら進めているので、裁量や提案の余地が非常に大きいというのが特長です。これは事業会社だからということもありますが、博報堂DYグループの持つ「粒ぞろいより、粒違い」という人材育成方針によるところも大きいと思っています。どうしたらもっと良くなるか、おもしろくなるかを考えて自分で仕事を作っていくことができる人が評価され、提案を受け入れる土壌ができています。
また、先ほどもお話しした「価値」をどう表現するか、という点について、広告のプロが周りにたくさんいるのですごく鍛えられるというのは、普通の情シスにはないおもしろさではないでしょうか。とくに当社は意見を伝え合う、違うものを出し合うということを前向きにやるカルチャーがあるので、皆さん壁打ちにも快く付き合ってくれます。
グループ情報システムセンターのメンバーはどんな方が多いですか?
バックグラウンドは多様で、私のように事業会社の情シスから来る人、コンサルティングファームから来る人、SIer出身の人、はたまたIT系の事業会社の営業をやっていたという人もいます。これはまさに「粒違い」ということではあるのですが、その中で情シスなんだからテクノロジーのことだけをやっていればいいんでしょ、という考えの人は1人もいません。
事業とテクノロジーが合わさっている部門であるという認識が共有されていて、どちらか一方に偏ることなく、うまく重なり合うところで価値を生み出していこうという考え方を持っています。そういった考えがベースにあるので、皆さんオープンマインドで物事を良い方向に進めていくエネルギーを持っています。
メンバーの働き方について、合田さんが意識されていることはありますか?
プロジェクトが忙しくなるとどうしても残業が増えてしまうことはありますし、抱え込んでしまう人もいると思うのですが、大切なのは個人に丸投げせずにチームで解決することだと考えています。状況は人それぞれなので、働き方を一律で定めることは難しいのですが、管理職が毎日タイムシートを確認することで各メンバーの業務の状況を把握し、声を掛け、改善するという、上司と部下のコミュニケーションのサイクルを回すことで、健康第一の働き方の実現に取り組んでいます。
まだ誰も見たことがないものを作る挑戦者
最後に、どのような方にグループ情報システムセンターに加わっていただきたいですか?
われわれは、博報堂テクノロジーズとしても、博報堂DYグループとしても、誰も見たことがないものを作ろうと新しい挑戦をしているので、そのためには変化や逆境にめげない粘り強さが大事だと思います。そうした挑戦に熱意を持って積極的に携わりたいと考えてくださる方というのが1つめです。
2つめは、新しい挑戦にあたって明るくハキハキとしたリーダーシップを発揮できる方です。リーダーシップの捉え方はいろいろあると思いますが、われわれのプロジェクトにおいては立場も考え方も異なる粒違いの人たちをまとめながら新しい価値を生み出していく必要があるので、遠心力と求心力のバランスを取りながらチームを率いていける人が求められています。
そういったリーダーシップを発揮し、相手の意見を尊重しながら自分の意見もしっかりと伝えられる方にはぜひ仲間に加わっていただきたいです。
※ 記載内容は2024年7月時点のものです
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