博報堂DYグループ横断のデータマネジメントの仕組みづくりや、基盤の開発、運用に取り組んでいるデータマネジメントセンター。今回は手塚 圭一執行役員兼センター長に前後編の2回に分けて、データマネジメントセンターが扱うデータと各部の仕事、今後の挑戦について話を伺いました。
前編では、ご自身のキャリアやこれまでの挑戦と、データマネジメントセンターとしての取り組みをお伝えします。
誰もやらないからこそ意味がある。インターネットが急速に普及した時代の広告業界へ飛び込んだエンジニア
はじめに手塚さんのご経歴について教えてください。
1997年に新卒でメーカー系のSI企業に入社しました。そのころちょうどインターネット環境の構築を進める組織が多く、官公庁や通信会社など案件に携わりました。5年間在籍する中でインフラやアプリケーション開発などさまざまな経験をさせてもらいましたね。
SIというのは、いわゆる工数ビジネスです。自分の単価と工数に基づいて営業が見積もりを作るのを横で見ているうちに、これでは自分の力で稼げる額に限界があると感じるようになり、別の働き方をしてみたいと転職を決めました。
正直、当時広告にはとくに興味がなかったのですが、たまたま過去に一緒に仕事をしていた先輩がいたという理由で、2002年に博報堂DYグループのデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(以下DAC※)に入社しました。
※ 現Hakuhodo DY ONE
先輩の話をきっかけにご入社されたとのことですが、DACのどんなところに興味を持ちましたか?
インターネット広告業界ってどうですか、と質問したときに「インターネット技術の上に成り立っている業界だけど、その技術をしっかり理解している人は少ない」という答えが返ってきたんです。それを聞いて、当時エンジニアの自分にはこの業界がブルーオーシャンに見えて、技術の力を使って広告業界でビジネスをしていくのはおもしろそうだと感じました。
メディアやECに行く人はいましたが、広告業界に飛び込むエンジニアはごく少数。せっかくなら他の人がやっていないことをやってやろうという気持ちがありました。
DACではどんな仕事をされていましたか?
最初の10年は広告配信に携わっていて、これが私のキャリアの軸になっています。それまでDACは、メディアレップとして媒体社が保有しているオンラインの広告枠を買い付けて広告主に販売することをメインの事業としていて、アドネットワーク関連は自社で広告配信システムを持たずに、他社のプロダクトを使っていました。
私はテクノロジーと広告をかけ合わせて何かをしたいという思いが強かったので、1年半ほどかけて会社を説得し、広告配信のプロダクトの販売と、配信の仕組みを使った広告運用という2つのビジネスへの挑戦を始めました。
エンジニアだけでなくプリセールスもやっていたので、よく媒体社を訪問して使っているプロダクトの不満や課題をヒアリングしたり、それらを自分たちのプロダクトに反映させて見せに行ったりしていました。
10年ほど経ったころ、リアルタイムビッディング(以下RTB)という、現在もプログラマティック広告(運用型広告)の核となっている技術が登場しました。そこで今度はRTBの技術を使ってビジネスをする会社と、RTBの技術そのものを売る会社を博報堂DYグループ内で立ち上げて、経営も経験しました。
博報堂DYグループが持つデータの価値向上をめざすデータマネジメントセンター
現在センター長を務められている博報堂テクノロジーズのデータマネジメントセンターの立ち上げの経緯を教えてください。
2022年に博報堂テクノロジーズが設立された際に掲げられたいくつかの柱のうちの1つがデータマネジメントです。博報堂テクノロジーズ設立以前は、事業会社ごとにテクノロジーユニットが存在しており、博報堂DYグループ全体としてテクノロジーにどう向き合っていくかという議論が本格的にはされていませんでした。それはデータマネジメントについても同様で、データをグループ横断で活用するための仕組みやデータ管理についての共通ルールがない状況でした。
そのためグループ内であっても別の事業会社のデータを使用させてもらうことは障壁が高く、さまざまな調整を経て使うに至るまでに半年もかかるというようなケースが少なくありませんでした。
データというのは、広告ビジネスにとっての生命線と言えます。生活者のインサイトの裏付けにも、広告の効果検証にもデータが欠かせません。また、データビジネスの基本は複数のデータを組み合わせて新しい価値を生み出すことなので、データの種類や量が強みになります。そこで、博報堂DYグループが持つ豊富なデータをきちんと管理しアクセスできるようにするという使命のもと、データマネジメントセンターが誕生しました。
データマネジメントセンターの役割についてもう少し詳しく伺えますか?
現在データマネジメントセンターには3つの部署があります。この3部に共通する大きな役割は、データの収集、管理、加工、デリバリーという一連のプロセスを高度化することです。
そのためにわれわれが取り組んでいることの1つが、グループ横断のデータマネジメントを実現するデータクロス分析基盤の発展です。博報堂DYグループ内でデータに関わる人は、大きく3つのレイヤーに分類できます。
1つは、博報堂テクノロジーズで開発を担っている人たち。2つめは、博報堂DYグループ内のプランナーやクリエイティブ、営業など現業部門にいる、データに強い人たち。3つめが、現業部門にいて、自分では直接扱わないものの、業務上さまざまなデータを必要とする人たちです。データマネジメントセンターでは、この3つのレイヤーすべての人たちを対象として、データを使いやすい形で提供し、データ活用の価値を理解してもらうことをめざしています。
広告におけるターゲット設定や企画内容には、データによる裏付けが求められるので、誰もが自分でデータを扱えるようにならなければならないと考えています。
データクロス分析基盤の現在地は、3レイヤーのうちもっともデータに近い開発者にとっての使いやすさもまだ不十分といったところです。現業部門の方にとっては、データを引っ張ってくるために新たに身につけなければならない知識や技術が多く、手順も煩雑なので、今の状態で無理やり使ってくださいというのは効率もよくありません。
データのことはよくわからない、という方々にもデータを使ってもらえるようになるまでの道のりはまだまだ長いですね。生成AIなども出てきているので、それをうまく活用する方法も模索していきたいと思っています。
博報堂DYグループのすべての人にデータを活用してもらうために、今もっとも注力していることは何ですか?
現業部門に所属する一般ユーザーはおそらく今後も自らSQLを書くことはしないと考えています。誰かが作ったアプリケーションのインターフェースを介してデータを見ることになるでしょう。それらのアプリケーションは、われわれに限らず博報堂テクノロジーズのさまざまなセンターで開発していくことになるので、少なくとも開発者がデータについて深く理解できる状態を作るということにまずは取り組んでいます。
たとえば、データマネジメント部ではメタデータを収集したり、データカタログを整備したりしています。開発者レベルでグループ内にあるデータについて理解できるようになれば、データを使ったプロダクトのレベルも一段上がり、その先のエンドユーザーも恩恵を受けられるようになると考えています。
データのバリューチェーンを理解し、ゴールから逆算してデータと向き合う組織
データマネジメントセンターのミッションを達成するために、メンバーにはどのようなことが求められますか?
どんな業務を担当していても、データのバリューチェーンをすべて理解できるようになってほしいと思っています。自分たちがやった仕事の結果、最終的にデータがどんな人にどう使われるのかを考えられなければなりません。
データというのはどんどん流れていくものです。たとえば、APIの仕様変更に追従しながら、広告配信の結果を吸い上げて蓄積するという業務があります。その業務だけ切り取ってしまうと視野が狭くなってしまいがちなのですが、実際にはその後にもたくさんの工程があって、最終的にそのデータは広告配信の結果レポートや次の提案のベースとして、広告主のもとに届けられます。
データは先に行けば行くほど加工の手間が増えるので、このデータのストリームを理解し、先を見据えて手前で必要な仕込みをするのがわれわれの仕事です。そのために、データがたどり着く世界を全員が想像できるようにしていきたいです。
後編では、データマネジメントセンターの2つの開発部署が担う役割と今後の挑戦、仕事の魅力についてお伝えします。
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