
博報堂テクノロジーズと会津大学が実施するサマーワークショップが、今年で3回目を迎えました。「生成AIによる動画制作」をテーマに開催された今回のワークショップでは、データサイエンティスト集団「AaaS Tech Lab」の4人のメンバーが講師を務めました。
リーダーの篠田裕之氏を除く3人は、いずれも入社1〜4年目の若手社員。しかも、動画生成AIに本格的に触れるのはこれが初めてのことでした。
データサイエンティストとして日々AIと向き合う彼らは、どのようにして短期間で動画生成AIのノウハウを習得し、学生への講義をデザインしたのでしょうか。ワークショップを振り返り、現場で使用された資料を引用しながら、生成AI時代に求められるAI活用の指針と学びの姿勢について話を聞きました。

篠田裕之
博報堂テクノロジーズ メディア事業推進センター データテクノロジー1部 部長

細井晃貴
博報堂テクノロジーズ メディア事業推進センター データテクノロジー1部

山中祥平
博報堂テクノロジーズ メディア事業推進センター データテクノロジー1部

柏木爽良
博報堂テクノロジーズ メディア事業推進センター データテクノロジー1部
学生たちへの講義を通じて、自分たちをアップデートするテーマ設定
2018年に始まった博報堂テクノロジーズと会津大学の共同研究。さらなる連携強化の一環として始まった本ワークショップは、これまで「LLMを用いて自分自身を模したエージェント開発」「生成AIによるアイデア創出と企画書の自動生成」といったテーマで実施されてきました。そして、本年度のテーマは「動画生成AIを用いて与えられたテーマで動画をつくる」です。
3日間を通して行われるこのワークショップでは、1日目に動画生成AIの概要と動画制作Tipsの講義、2日目には動画生成AI Runway-Gen4を用いたハンズオンとAI活用Tipsの講義、そして3日目には講師、学生らが生成した動画作品を持ち寄る上映会が実施されました。今回、動画生成AIというテーマが設定されていますが、テーマづくりにおいて大事なのは、「自分たちも学生たちと共に模索すること」と語るのは、1日目の講師を務めた篠田裕之です。

篠田:例年、その時点でベストメソッドが確立していないようなテーマを設定しています。かつての動画生成AIはアウトプットに課題が多かったですが、2024年に入ると性能が飛躍的に向上し、時代が大きく変わりました。
こうした新しいパラダイムには、まだベストメソッドが存在せず、私たちも学生たちと一緒になって学び、模索せねばなりません。学生たちへの講義を通じて、自分たちをアップデートできるようなテーマを例年設定しています。
AIの使い手に求められる「なにをつくるか」という狙い
ワークショップ1日目は動画生成AIの歴史や技術的バックグラウンドといった概要とともに、動画制作の手法とそれを実現するためのプロンプトなどのTipsが解説されました。一見、AIとは関係がないように見える動画制作の手法に時間を割いたのには、ある意図があったと篠田は振り返ります。
篠田:高水準の動画をAIで簡単に大量につくれるようになったいま、それら生成された動画のなかから、どれがベストなものかを見極めるには、自分がなにをつくりたいのか、という「狙い」が不可欠です。ですから、講義ではAI活用以前に「狙い」を定めることの重要性を伝えました。

今回のワークショップでは、各自が最終的に与えられたテーマにそった動画をつくります。テーマに対して、ユーモアのある映像にしたいか、ホラーっぽい映像にしたいか、といった各自の「狙い」に応じて、動画の構図やカメラワークなど、「狙い」を実現する演出は変わってきます。ですから、作り手は「狙い」と同時に、狙いを実現する手法を知らねばなりません。

動画生成AIが簡単に動画を出してくれますが、それを「たたき」として、自分の「狙い」のために適切な演出がされているかを見極める態度が重要だと思います。
試行錯誤で見つける「AIの気持ち」
「自分たちも模索する」の言葉のとおり、講師を務めた他3名も、試行錯誤しながら、学生たちに伝えるべきノウハウを模索します。「動画生成AIについて講義するうえで一番意識したのは、『AIの気持ち』を理解すること」と、入社4年目の細井晃貴は語ります。普段はメディアプラニングツールの開発に携わる細井ですが、今回のワークショップでは2日目の講義で、動画生成AIツール「Runway Gen-4」の実践的な使い方を伝えました。

細井:AIはプロンプトに忠実な反面、プロンプトに含まれない要素は一般的な情報で補完しようとします。ですから、狙いにそった出力を得るには、プロンプト内容の検討と試行錯誤が不可欠です。例えば、私がテニスをしている動画を作りたいとき、ただ「テニスをする人」と入力しても思い通りの結果は得られません。日本人という属性を明確に指定したり、年齢や身長、体型まで細かくプロンプトに入れ込む必要があります。

山中:AIが使い手の意図を完全にくめず、「そうきたか」みたいな出力をされてしまうことが往々にしてあります。自分の意図とAIの出力が、どこが違っていて、なにが欠けているかを考え、修正するためのプロンプトへと言語化する力が重要だと思っています。
細井:講義では「人物が寝ている状態から起き上がる」というシンプルな生成動画を紹介しましたが、実は、このシーンを作るのに10回以上試行錯誤しています。課題はさまざまでしたが、AIにリファレンスとして与えた画像がそのまま動画の最初のフレームになってしまう、表情の変化をプロンプトの指定ではうまく映像化できない、といった要因から、意図した動画が生成できなかったんです。そこで、自分の顔の動きを撮影し、その動きをキャラクターに反映させる「Act-Two」という機能を活用してみたらうまくいきました。

5回くらい試したところで限界かなと感じましたが、諦めずにRunwayの機能を試し、プロンプトを探り続けることで解決策が見つかりました。こうした試行錯誤のプロセスそのものを学生に見せることが、動画生成AIの活用を学ぶうえで重要だと考えました。
ツールの理解から始まる、自分なりの使い方
入社3年目の山中祥平は、普段は広告効果のシミュレーションやテレビ広告の最適化ソリューション開発に携わっています。動画生成AIは今回が初挑戦でしたが、その習得プロセスには、データサイエンティストならではの強みが表れていました。

山中:LLMに比べると、動画生成AIは言うことを聞いてくれない印象があります。でも、AIの基礎的な仕組みをある程度、学んでいるので、どういうアプローチをすれば期待する結果に近づけるか、予測しながら試すことができました。
山中は、普段使用している開発用AIエージェント「Claude Code」を例に挙げ、生成AI全般に共通する使いこなしのコツを説明します。
山中:最初はClaude Codeを単純なコーディング支援ツールとして使っていましたが、今では開発の方向性の相談相手として活用しています。これは動画生成AIでも同じで、ツールの機能を理解することから始まり、徐々に自分なりの使い方を見出していくプロセスが重要です。

進化し続ける技術の使い手であるために、キャッチアップし、試す
入社1年目の柏木爽良は、日頃の業務でAIを活用しているものの、動画生成AIについては学生とほぼ同じスタートラインでした。

柏木:自分も初めて使う立場だったので、資料を準備する中で自分が困ったところは、きっと学生も困るだろうと想像しながら作りました。専門用語を避けて、自分自身が最もわかりやすいと思える説明を心がけました。
柏木は今回の講義を「教える、というより、先に学んで共有する、というイメージです」と表現します。これは、急速に進化する生成AI分野において、とくに重要な視点かもしれません。同分野の進化のスピードの早さは、細井も強調します。
細井:今回のワークショップで伝えたTipsの多くは、「講義時点の」Runwayにかぎった話です。講義では、柏木さんが画像に文字を埋め込むTipsとして、「プロンプトではなく、埋め込みたい文字をリファレンス画像で示す」という方法を紹介してくれています。

しかし、例えばGoogleのNano Bananaであれば講義から2ヶ月経った今、文字も綺麗に入るようになっています。 常にアップデートされる情報を摂取しつつ、それを「自分で試してみる」というのがAI分野で継続的に学びを深めるために必要なアプローチだと感じています。
山中:AI分野の知識は、追いつこうとしても常に置いていかれるような感覚があります。これから先、重要になってくるのは、新しい情報や技術をキャッチアップして、その技術にはなにができて、なにができないのかといったことを学ぶことです。この点は、今回のワークショップを通じて、ぜひ伝えたかったことです。
ツールの機能やプロンプトの工夫、制作手順などは、あくまでも「その時点」のものに過ぎず、進化の早いこの分野においては、ノウハウの陳腐化もまた素早いです。講義のためだけでなく、常に自身も学び続けることの大切さを、全員が振り返ります。
こうした講師陣の狙いを学生の側も受け取ったことが、最終日に上映された学生の作品からも伝わってきたとそれぞれが振り返ります。
柏木:学生の皆さんのプレゼンテーションを見ていると、講義の内容をそのままではなく、学んだことをベースに自分なりの方法論やTipsを編み出していることが伝わってきました。
ある学生は配布されたクレジットを全て使い切り、自費で追加して制作を続けたといいます。これは、学生たちがAIとの「格闘」を通じて、その特性と限界を体感的に理解した証拠でしょう。そうして生み出された学生たちの作品のクオリティの高さには、講師陣も驚いたといいます。
ツールの理解と試行錯誤の重要性。ワークショップを経て得た学び

今回のワークショップから見えてくるのは、生成AI時代における人材に求められる「学び」に対する姿勢です。講師を務めた若手メンバーが、動画生成AIの経験がほぼゼロの状態から、わずかな準備期間で学生に教えるレベルまで到達できたのは、AIの基礎原理を理解し、日常的にAIそのものと向き合っているからこそ。
「生成AI分野では、ベストメソッドが確立しているものは少なく、みんな同じゼロのラインからスタートすることになります」と柏木は語ります。しかし、その同じスタートラインから、いかに早く本質を掴み、応用展開できるか。そこにこそ、生成AI時代の人材に求められる学びの素養があります。
生成AI技術が日進月歩で進化する中、重要なのは個別のツールの使い方以上に、AIの本質に向き合い、試行錯誤を重ね続ける姿勢を持つこと。講師を務めた若手データサイエンティストたちがサマーワークショップにおいて示したのは、まさにそうした生成AI時代の技術者の在り方なのかもしれません。
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