博報堂DYグループのテクノロジー戦略会社として、2022年4月に設立された博報堂テクノロジーズ。グループ各社の多種多様なテクノロジー人材が集約され、活躍している。部署ごとにカルチャーが異なるが、中でもマーケティングDXセンターの「XT.H®(クロステックエイチ)」チームは、キャリア入社メンバーがチームを牽引しており、興味のある分野にチャレンジできる雰囲気があるという。今回はタレントでソフトウェアエンジニアの池澤あやかさんが、「生活者インターフェース市場」を開拓するそのパワーの源泉をインタビュー。「XT.H®」の特徴やチームの働き方について語り合った。
地域のモビリティやヘルスケアをDX。生活者インターフェース市場の最前線
池澤:博報堂テクノロジーズのマーケティングDXセンター「XT.H®(クロステックエイチ)」チーム(以下、 「XT.H®」チーム)では、どのようなビジネスを展開しているのでしょうか。
麻生:現在、博報堂DYグループは「生活者インターフェース市場」というキーワードでビジネスを展開しています。5GやIoTといったテクノロジーの進化や、コロナ禍の影響もあって、生活者と企業や社会との接点のデジタル化が急速に進んできました。
その接点のところに新たな体験やサービスの可能性が広がり、新しい市場が生まれようとしている。私たちはこれを「生活者インターフェース市場」の到来と捉えています。
この新しい市場にどのような価値を提供していくべきか。生活者の視点で発想し、単なる机上のアイデアに終わることなく、サービスを社会実装することを目的に、これまでにないサービスを提供していきたいと考えています。
株式会社博報堂テクノロジーズ
マーケティングDXセンター プロデュース2部長 麻生 亜耶氏
SIer、専門広告代理店を経て、2013年に博報堂に入社。マーケティングシステムの開発、マーケティングデータの整備・分析、グローバル領域でのナレッジ開発、現場部門のバックアップなどを経験。
池澤:具体的にはどんなサービスが動いているのですか。
麻生:今関わっているのは、モビリティ、自治体、ヘルスケアといった領域におけるDXソリューションですが、今後、エンターテインメントや保険、不動産という領域にも展開していく予定で、実際にいくつかの案件も進んでいます。
すでにローンチしているものとしては、例えば「ノッカル」というサービスがあります。地域の移動課題を解決するために、住民同士がマイカーを活用した送迎サービスを行うというものです。自治体が運行主体となってドライバー・利用者の募集、運行管理をし、博報堂がサービス設計・コミュニケーションデザイン設計を担当、我々「XT.H®」チームがシステム開発全般を担当し、2020年より富山県朝日町でPoCを開始、2021年より本格運行を開始しました。既に複数の自治体に導入されていますが、今後、移動問題を抱える全国の自治体を中心に導入できればと思っています。
ヘルスケア領域では、「ロコモ年齢」というサービスがあります。運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態を 「ロコモティブシンドローム=ロコモ」というのですが、「ロコモ年齢」はWebサイト上で簡単な質問の答えるだけで、自分の歩行など移動機能の健康度を示す「ロコモ年齢」を測定することができ、その健康度に応じたアドバイスを受けられるようになっています。
インタビュアー 池澤 あやかさん
フリーランスエンジニアを経て、現在はIT企業でソフトウェアエンジニアに従事。東宝芸能社のタレントとして情報番組やWeb メディア、イベントなどにも出演し、マルチに活躍。
池澤:サービス開発のためのプラットフォームが構築されていると伺いました。
麻生:サービスの実装基盤として活用しているのが、博報堂テクノロジーズで開発した業種別SaaSプラットフォーム「XT.H®」で、このプラットフォームを用いてサービス設計から開発・実装、運用まで関わるのが、「XT.H®」チームです。
サービス開発にあたっては博報堂のマーケティング部門がサービス設計を行い、実現するための技術検証や、システム・アプリの開発を博報堂テクノロジーズが行うというのが大まかな分担ですが、開発を委託する・受託するという関係ではなく、ワンチームで1つのサービス開発を行っています。
ただ、博報堂だけで考えると、どうしても一つの得意先向けの機能というように個別に特化してしまうことが多いので、それを汎用化するというところから我々、博報堂テクノロジーズのメンバーが関わり、実際の導入支援までをグループ一体で担当している形になります。博報堂テクノロジーズは単にシステム開発をして終わりではなく、生活者の課題に常に寄り添いながら、自社サービスの継続・発展に関わっているのです。
博報堂DYグループ内の横のつながりも緊密で、その豊富なノウハウを活用することができます。各社から人が集まり、チームとして一緒に活動しているので、グループとして一体感をもった設計・開発ができています。概念設計だけでなく、サービス導入の現場のことも把握する必要があります。後から出てくると思いますが、サービスを柔軟に運用するために行政に働きかけたり、法令の解釈変更に関わったりというようなこともあるんですよ。
これは博報堂DYグループならではと思いますが、人々の行動様式をガラッと変えるような大きな仕掛けに関わっているという実感がありますね。
池澤:「XT.H®」のプラットフォームは「業種別SaaS」という位置付けですね。
麻生:同じ業種であればやりたいことは似ているということもあり、一つものを作ればそれを横展開できるんじゃないか。そこで個別の企業や自治体ごとにシステム開発をするのではなく、クラウド上に汎用的なシステムを一つ作り、それを顧客の必要に応じてカスタマイズして展開していくようにしています。
「XT.H®」は、すべて博報堂テクノロジーズが内製で開発しています。それだけにスピード感をもって開発が進められる体制が、この3年ぐらいでようやく形になってきました。導入コストや導入までのリードタイムなども、減らすことができるようになりました。
PoCだけでは終わらない。スモールスタートで本番サービスを次々稼動
池澤:あらためて「XT.H®」を活用したサービス開発の面白さはどこにありますか。
麻生:やはり自分たちが作ったものが使われているのを見るときや、それを使ったことでどう改善されたなど、そういった効果が見えるとやりがいを感じますね。「ノッカルを使って、90代のおばあちゃんが5年ぶりに外出できました」という声を聞いたときは、本当に作ってよかったと実感しました。
池澤:かなり大きなビジネスを動かすプロジェクトが多いと思いますが、一つのプロジェクトはどのくらい期間をかけて開発しているのですか。
麻生:PoCの場合など、短いものだと2カ月ぐらいでリリースしたのもありますが、ノッカルの本番開発は1年がかりでしたね。ただサービス開発には実は終わりがなくて、毎週のように追加リリースをしています。
池澤:PoC(概念実証)から入ることが多いのですね。PoC止まりで終わってしまうプロジェクトや、PoCと本番の壁みたいなのを感じることはありますか。
麻生:もちろんPoCで止まっているプロジェクトもありますが、「XT.H®」チームではPoCから本番にいく率は高いと思います。
また、PoCの間は自動化しないで手動でやるなど、リリース優先で機能を削るということはありますが、本番も基本的にスモールスタートで始めます。だから、PoCと本番の間の壁はあまりないですね。
池澤:PoCが実際に本番に行く可能性が高いというのは、開発者として嬉しいですね。
麻生:ただ、PoCではコア機能だけを開発したり、使用方法に制限を設けるなど、実際に使う方々にもご協力いただいて、スピード優先で実験できる一方で、本番運用となるとそうばかりは言っていられないという責任の大きさも感じています。
チームメンバーの柔軟思考・臨機応変・イベント好きがキーワード
池澤:「XT.H®」チームの開発者の雰囲気や特徴について、聞かせてください。
麻生:最大の特徴は、若手世代が多いこと。20代後半が主力で、全員が中途採用者です。女性も多いですね。仕様書通りに作って終わりというタイプのエンジニアはいないですね。初期の設計に妙にこだわったりはせず、臨機応変に動いています。
開発だけでなく、UI/UXにも関心がある人や、マーケティングやサービス設計、ビジネス企画にも興味があるといった人が多く、多様性がありますね。
池澤:川畑さんは、今年春に転職でこのチームにジョインされたということですが、チームの雰囲気はいかがですか。
川畑:和気藹々と開発しています。みんな話しかけやすいし、いろいろな話を聞かせてくれます。基本はリモートワークなのですが、週一で出社する機会があり、みんなでお喋りを楽しんでいます。ハロウィンやクリスマス、誕生月の人をお祝いする会といった、イベントを企画して楽しむ雰囲気もあります。
株式会社博報堂テクノロジーズ
マーケティングDXセンター 川畑 乃乃氏
前職では顧客の要望を受けて、設計から実装して運用までを担当。2023年3月、PHPエンジニアとして入社。
麻生:近所の期間限定の美味しい桃のケーキを食べたいから、誕生月の人はいないけれど、「夏を乗り切る会」を開いたりしたこともあります。この前の七夕はみんなで真剣に短冊を切って、その飾りをセンター長の席に勝手に置いたりしました(笑)。
PHP、Javaがメイン。それ以上に必要なのは「to C」サービスの経験
池澤:川畑さんは、どんなきっかけで博報堂テクノロジーズに入社されたのですか。
川畑:前職は二次請け主体のSIerに勤めていて保守開発が担当でしたが、デザイン領域にも自分のスキルを伸ばしたいので転職活動を始めました。
最初は博報堂テクノロジーズが自社開発に強い会社であることはよく知らなかったのですが、面談で受託開発ではなく自社開発に注力していること、チームの雰囲気がいいこと、デザインにも挑戦できるチャンスがあることなどを聞いて、入社したいと思いました。
PHPエンジニアとしての入社でしたが、今は希望どおりチームのデザイナーと一緒に、デザイン面での開発にも携わることができています。
池澤:エンジニアが求められる基本的なスキルは、どのようなものでしょうか。
麻生:現状はPHPエンジニアのバックボーンを持っている人が多く、その次がJavaですね。PHPとJavaの経験がある方が望ましいのですが、技術力は入社後に磨けるもの。それ以上に求めるのは、「XT.H®」チームはto C向けのサービスが多いので、to Cサービスの経験がある方、もしくはそれをやりたい方に来てほしいと思います。
池澤:たしかにto Cとto Bは、意識の持ち方が違うことが多いですからね。
麻生:to Cでも、特にお年寄りやITリテラシーの低い人をサービス対象とするケースが少なくありません。これまでそうしたユーザを対象にサービスを設計した経験がないと、カルチャーショックを受けることもあるでしょう。
サービスのUI/UXも、今流行りのトレンドを追ったデザインではなく、お年寄りファースト的なデザインを求められることもあります。サービス開発する上では自分たちの思い込みにとらわれず、それを実際に使うのはどんな人たちだろうと想像力を働かせることができるかどうか。それがポイントになります。
興味の範囲をどんどん広げてチャレンジできる人を歓迎
池澤:このチームにはどのようなタイプの人が合うと思いますか。
麻生:川畑のようにコードも書くけど、UIもやりたいなど、興味の範囲が広い人がいいですね。デザイナーとして入社したけど、プロダクトマネジメント的なこともやりたい、PHPエンジニアだけどもっと言語を増やしたいなど、プラスワンでどんどん新しいことができるようになりたいという人が向いていると思っています。
逆に今持っているスキルだけでコードだけ書きたいという人には、あまり向いていないかもしれません。
川畑:今は時代の変化が激しいので、その変化に応じて柔軟に考え方を変えられる人、それに面白さを感じる人がいいですね。非常に若いチームなので、ベテランエンジニアの人に手取り足取り教えてもらいながら成長していきたいというタイプではなく、同じような立場の人と競い合いながら成長していきたいという人が職場にフィットできるんじゃないかと思います。
麻生:これは博報堂DYグループ全体に言えることですが、手を挙げればいろいろなことをやらせてもらえるチャンスがあるので、常にこういうことをやりたいですって声に出してくれる人。その希望が叶って案件にアサインされた時に、ゼロから頑張れる人が向いていると思います。
得意先も大企業や地方自治体などが多く、私たちの仕事の社会的インパクトは大きいと感じています。例えば、ノッカルに関しても個人が運送業務を担うわけですから、法律的にどうなのかという法解釈の幅が出てきます。そこに我々が挑戦して、新しい市場を切り拓くという醍醐味がありますね。
つまりは、社会課題を解決する事にやりがいを感じられる人。たとえPoCが失敗しても、それはチャレンジですから、その後の財産になる。「生活者インターフェース市場」という新しい領域を、自分を成長するフィールドとして捉えられる人は非常に向いているのではないでしょうか。
HR・エンタメ・ヘルスケア・地域活性──リリース予定のソリューション
池澤:これまでお話いただいたもの以外、どんなサービスがあるのかますます興味が湧きました。
麻生:HR(人事系)のサービスでは、職場の人たちがアンケートに答えることで、人事部がフィジカルとメンタル双方でのリスク度を判定し、適切な施策が取れるようにするツールを開発し、昨年PoCを行いました。
博報堂DYグループの健康診断エンターテインメントソリューションに、去年の自分の健康診断の結果と今年の自分の健康診断の結果を比較して改善度合いが高い社員を表彰する「健診戦」というソリューションがあります。改善度合いが高い人を表彰するといった健康経営のためのソリューションなのですが、この開発にも関わり、すでにリリースしています。
他にも、エンターテインメント領域ではLINEを活用したファンクラブのプラットフォーム開発の構想があったり、自治体向けでは地域活性化を目的としたポイントソリューションを来年リリース予定です。
麻生:歩数計のアプリと連携して、住民全員で一定期間歩いた歩数の合計が日本一になったら花火を打ち上げるサービスのPoCもやりましたね。地元のみなさんの熱い協力のおかげで、あっという間に日本一を達成することができました。
池澤:エンターテインメント性もありながら、同時にヘルスケアや地域活性化にもつながる。面白そうなソリューションですね。「生活者インターフェース市場」は、まさに私たちの身近にあるもの。そこに斬り込んでこれまでにないサービスを提供していく「XT.H®」チームの活躍を、今後も大いに楽しみにしています。
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