広告の配信やプラニング、各種クリエイティブ制作をサポートするWebアプリ開発とAI研究を行うプロダクト開発センター。
今回は柴山 大執行役員兼センター長に、プロダクト開発センターが開発しているプロダクトと、それによって実現しようとしているミッション、AIとマーケターの関係について、話を伺いました。
テクノロジーの力で社会に新しい価値を提供するための企業とM&A
はじめに柴山さんのご経歴について教えてください
大学卒業後は通信キャリアやインターネット関連企業で、テクノロジーとマーケティングの領域に携わってきました。自分がこれまでに培ってきたケイパビリティを活かし、社会に対して新しいアプローチをしていきたいという思いからnegociaを起業したのが2017年です。
当時、AIという言葉自体はすでにたくさん使われていましたが、今と比べると世の中的にはまだ漠然と、何かすごいものだというくらいの認識しかされていませんでした。そんな中で、AIを使うことでマーケティングはもっと楽に、便利にすることができるのではないか、広告をもっとよくできるはずだと考えて、Amazon Advertising向けのAI自動運用サービスの提供を始めました。
2019年に博報堂DYグループの統合デジタルマーケティングエージェンシーであるアイレップ(現 Hakuhodo DY ONE)にM&Aをして博報堂DYグループに入り、現在に至ります。
M&Aにあたってアイレップを選ばれた理由はなんですか。
negociaは内製の開発力やAIを作る能力にはとても自信がありました。加えて、広告のオペレーションについても一定程度ケイパビリティとして持っていました。ただ、私たちが持っていないものを持つ企業と一緒になることでさらにケイパビリティを高めていきたいという考えがあり、求めていたものを持っていたのがアイレップでした。
アイレップのもっともすごいところは、デジタル広告のプラットフォームを論理的かつ徹底的に攻略して成果を出す能力です。そのノウハウは、私たちが自力開発している中では手に入らないものでした。
現在プロダクト開発センターが開発しているプロダクトも、どう楽にするのか、どう良くするのかを徹底的に追求し、ロジックを積み上げてから作り始めるので地に足がついており、実運用上役に立つということや、広告の成果を出すということについて、より自信を深めることができるようになりました。
社会インフラとしての広告を、もっとポジティブなものへ
柴山さんがプロダクト開発センターで実現しようとしていることを教えてください。
プロダクト開発センターでは「うれしい広告の実現へ」というミッションを掲げています。広告というのは、ポジティブに受け止められることももちろんありますが、一部のネット広告を中心に、生活者に対してネガティブな感情を与えてしまうこともあると感じています。Webサイトを閲覧していると同じようなバナーばかり出てきて煩わしいといった声を聞くこともあります。
しかしながら、広告の本質はそのような側面で語られるべきではないと考えています。広告の社会インフラとしての役割は、商品やサービスの魅力をぎゅっと凝縮して伝えることです。凝縮しているからこそ、生活者が得られる情報の総量を増やすことができ、生活者はその中から自分に合ったものを選択しやすくなります。また、広告で見たことがある、ということが商品やサービスを選ぶ際のひとつの安心材料になるという側面もあると思います。
本来広告は社会インフラとして役に立つ、意義のあるものであるはずなのに、ネガティブな側面が強調されてしまうことがあります。そのネガティブな側面をテクノロジーによって緩和し、生活者にとってより有意義な社会インフラへと変容させたいと考えています。それをひと言で表したのが「うれしい広告の実現へ」というミッションです。
うれしい広告の実現に向けて、今注力していることは何ですか。
うれしい広告の実現のためのプロセスの中で、今重要だと考えているテーマがAI-UXです。昨年度から巻き起こっている生成AIブームは、マーケティング業務に大きな変化を生んでいます。生成AIを使うことでより広告の魅力が増したり、制作のスピードが上がったりすることも多く、広告を届ける立場として各所で生成AIを活用する場面が増えてきています。
ところが、LLM(大規模言語モデル)などの生成AIを手足のように使いこなしてAIでプラニングをするというのは、現状では誰もができることではありません。もちろん上手に使いこなすアーリーアダプターも存在しますが、高い能力が求められるのでどうしても品質にバラつきが出てしまいます。
そこで、われわれテクノロジー部隊が取り組んでいるのがUXの向上です。誰もが均一的に高いレベルでAIを活用できる状態をめざしています。私たちはAIをスクラッチでも開発していますが、作ったからどうぞ使ってください、ではなく、マーケターにどう使ってもらうのかまで考えることが非常に大切だと考えています。
企画・開発・AI研究の三位一体で、全内製スクラッチにこだわるプロダクト開発
開発の体制について教えてください。
プロダクト開発センターでは、約110名のメンバーで企画からプロダクトデリバリーまで、すべて内製化しています。AI-UXを実現するために、本当に必要なものを自分たちで考え、自分たちの腕でアプリケーションを開発し、AIも必要なものは自分たちで作っていくべきであるという信念のもと、企画部門、開発部門、AI研究部門が三位一体となってプロダクトの開発を進めています。
開発の体制としては、アプリケーション単位でプロダクトマネージャー、アプリケーションエンジニア、SRE、MLエンジニアなどがプロジェクトチームを組み、デイリースクラムを実施しながら1~4週間ごとにスプリントを回す、スクラム開発を採用しています。
AI-UXで広告クリエイティブのプラニングや制作をサポートするプロダクト開発センター
現在センター長を務められているプロダクト開発センターの役割を教えてください。
われわれが持つ大きな役割のひとつが、博報堂DYグループ全体のマーケティングを支える「CREATIVITY ENGINE BLOOM」というプロダクトの開発です。これは、博報堂テクノロジーズが全社的なミッションとして進めているものですが、プロダクト開発センターは「CREATIVITY ENGINE BLOOM」に含まれる5つのモジュール群のうち、生活者により良いクリエイティブを提供する<CREATIVE BLOOM>の企画・開発に取り組んでいます。
▲統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM」の主な機能(今後開発予定のものを含む)
<CREATIVE BLOOM>は、どのようなプロダクトですか。
<CREATIVE BLOOM>は、生活者により良いクリエイティブを提供するためのプロダクトで、マス広告やデジタル広告を含めた博報堂DYグループ全体のクリエイティブプラニングや制作をサポートします。
たとえば、制作業務に関わるものでは、リスティング広告の広告文を自動で生成し、入稿中の広告文とスコアの比較ができるツールや、ディスプレイ広告の制作にあたってクリエイティブの評価や自動生成ができるツール、テレビCMを生活者が観るときの注視点をアイトラッキングAIによってシミュレーションできるツールなどがあります。
また、マーケティングプラニングの領域では、商材名やURL、ターゲットと簡単な説明を入力するだけで顧客セグメントの設定やそれに基づくペルソナの設計ができるツールを提供しています。マーケティングの思考プロセスを細かく分解した上で、ステップごとに必要なAIモデルを選択し、プロンプトなどをチェインしていくことで、ベストな答えを導き出すことが可能となっています。
また、Webサイトが存在しないローンチ前の商材や、よりカスタマイズしたい案件では、手元の情報をインプットすることでインナー情報の反映を可能にするなど、汎用性と専門性を持ち合わせたプロダクトを提供しています。
こういったツールを誰もが負担なく使えるようにし、労力を削減しながら一定以上の品質を担保できるようにすることが、価値あるユーザーエクスペリエンスを届けるということだと考えています。
▲ペルソナの作成に必要な情報は4項目
▲自動生成されるペルソナの例
そのほかにはどのような取り組みをされていますか。
プロダクト開発センターの2つめの役割として、Hakuhodo DY ONEのテクノロジー化を進めています。Hakuhodo DY ONEは、博報堂DYグループの中で主にデジタル広告の領域を担っています。そのデジタル広告の運用のレベルを引き上げながら、楽にするためのアプリケーション群をわれわれが開発しています。
たとえば、複数の媒体で実施する広告キャンペーンを一元管理し、AIによって日予算や入札戦略の自動調整を行うAdvertising Flowというプロダクトがあります。プロモーションの予算をAIが自動で最適に配分することで、投資対効果の最大化を図っています。同じような目的で、Amazon Advertisingに特化したプロダクトもあります。
クライアント企業と共にもっと広告についての意識を深め、デジタルでより良いプロモーションを実施していくためのプロダクト開発も進めています。たとえば、運用型広告の成果がいつでも確認できるようなダッシュボードを提供しています。広告配信実績のAI分析機能を搭載しており、これによって意思決定の質とスピードの向上をサポートします。
▲ダッシュボードのイメージ
また、今はまだ提供できていないのですが、今後は過去のプロモーションにおけるプラニングの内容と成果を共有できるようにすることで、クライアント企業との協創を一層加速していきたいと考えています。
自由と自律、そして協調を重んじるカルチャー
プロダクト開発センターのメンバーで共有している行動指針はありますか。
プロダクト開発センターでは独自にバリューを設定しています。それが「自由と自律、そして協調」です。IT系のエンジニア組織において「自由」が謳われることは少なくないと思いますが、私が一番重要だと考えているのは、「自律」です。
自律というのは、自分がどうしたいかを自分で考える主体性と、ビジネスとしてどうすべきかを判断する規律をもって、プロフェッショナルとしての使命を果たすことができる状態を指します。自由なアイデアや自由なライフスタイルはもちろん尊重されますが、それぞれが自律して考え、それをみんなで協調して実現していく姿勢を大切にしています。
実際に、なぜやるのか、なんのためにやるのか、ということを徹底的に追及する組織文化があると感じています。これは、マネジメント層からメンバーに対してだけでなく、メンバーからマネジメント層に対しても同じです。なるべく意味のあることをやっていきたいと誰もが考えており、やる大義名分を導き出すための論理性をとても大切にしています。
働く環境という側面で、博報堂テクノロジーズやプロダクト開発センターの特長はありますか。
まず博報堂テクノロジーズの良いところは、新しくできた企業でありながら、充実した休暇制度をはじめとして大企業相当の福利厚生が整っていることです。
その上で、プロダクト開発センターではその制度を活かす文化が現場に根付いていることが特長だと思います。制度の活用には現場の理解が不可欠です。バリューでも示している通り、われわれは「自由」と「自律」を大切にしているので、他の方に迷惑をかけないことや自分が設定したミッションをやり遂げるという自律を前提に、お互いを尊重しながら上手に制度を使っています。
うれしい広告の実現に向けて、人間に寄り添うテクノロジーをアップデートし続ける
現在の課題を教えてください。
これまで急拡大でフルスクラッチ開発ができる組織を作ってきたので、ここからは組織としての強さを備えていくことが必要だと考えています。私はセンター長の立場ですが、当然ひとりで100名以上の組織を細かく見ることはできません。ミドル層のリーダーがまだまだ不足しているので、エンジニアリングのスキルを持ちつつ、組織経営にも興味がある方に加わっていただいて、組織を強くしていきたいというのが第一に考えていることです。
加えて、博報堂DYグループの中でも唯一スクラッチでAIを開発し、プロダクトに実装するところまでを完結できる組織として需要が高まり続けている一方で、供給が追いついていない状況があるので、組織をさらに大きくしていきたいという思いもあります。
強く、大きくなった組織で、うれしい広告の実現に向けてAI-UXの次に取り組みたいことはなんですか。
今取り組んでいるAI-UXは、向こう3〜5年以内には完了する計画です。AI-UXで実現しようとしているのは、究極のワークフローです。アプリケーションの操作によって分析を行い、その結果とそこから得られる示唆を別のアプリケーションに自動的に連携することで次のプラニングにつなげるというワークフローを実現することで、均一的で高品質、かつ効率的なマーケティングプロセスが提供できるようになると考えています。
その次、と言いますか、並行した目標としてあるのは、「人だから発揮できる」領域をいかに拡張していくかというテーマです。AIチャットは、あらゆる可能性の中から確率の高いものを組み合わせて、もっとも確からしい答えを導き出すので、質問をしたときに正解らしいものが出てきます。
逆に言うと、ペルソナを作りたいといった正解のない問に対しては「普通」の答えが出てくるのがAIの性質です。そこからいかにして、生活者の心に残る“良い違和感”を作っていくかがマーケターの腕の見せ所になります。
AIによってどんどん便利になり、マーケティングプラニングが自動でできるようになって、今までよりも洗練された広告が大量出てくるようになる。でもきっとその進化だけの世界線が行き着く先は、恐らくマーケティングとしては失敗だと思っています。AI自動化は取り組まなければいけないことではあるのですが、それだけに終始してしまうと、似たような商材に対しては似たようなマーケティングしかできなくなり、誰の心にも残らない広告が世に溢れることになりかねません。
今ある標準に対して軸をずらして良い違和感を作っていくというのは、人間がやるべき仕事だと考えています。AIの活用が標準となった世界では、人間が軸をずらすために、テクノロジーがどのような示唆を与えて、これまで人間が考え得なかったことを考えられるようにするかが課題となってきます。人間に寄り添うテクノロジーをアップデートし続けることが、AI-UXの実現と並行した長期のチャレンジです。
今後、どのような方に仲間に加わってもらいたいですか。
自分の仕事でユーザーに価値提供をしたいと考える方、そしてそれに対するフィードバックを得られることに喜びを感じる方はフィットすると思います。また、提供価値を高めるために新たな知を探究する主体的な学習の姿勢や、変化に適応する姿勢のある方にはぜひ仲間に加わっていただきたいです。
※ 記載内容は2024年10月時点のものです
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